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「鏡の中を数える」の制作に関わった方々による読後インタビュー。今回は、文芸書でありながらアート本を思わせるかっちりしたデザインに仕上げてくださったデザイナー、遠藤一成さんです。 |
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はじめにデザインを打診されてから刊行まで半年以上。版元をどこにするかも含めてずいぶん紆余曲折があったようですが、正式にオファーされてゲラを見せていただいた時は、ものの2〜3時間くらいで一気に全部読んでしまいました。僕はデザイナーにしてはよく本を読むほうだと思いますが、仕事とはいえ、これだけワクワクして読破できたのは久しぶりです。
短編が好きでよく読みます。いまだに好きなのは村上春樹の80年代の短編。「パン屋再襲撃」とか「納屋を焼く」とか。ちょっと不条理な感じ、現実を非現実的に蒸留してみせる手腕のような部分は、プラープダーにも引き継がれていると思いましたね。そして若いプラープダーの感覚は、みんながイメージしがちなタイよりも、もっとコンセプチュアルに現代のタイを表している。リアルな風土ではなく、彼の心象風景からフィクションが作られていく、しかも非常に清潔感のある筆致でリズムがいいですよね。第1話の「バーラミー」は、特に好きです。プラープダー自身の置かれている状況を客観的に見つめていて。
この本をデザインをするにあたって、なるべく文芸や短編集というジャンルを突き放して感じられるものにしてみたい、と思いました。価格を抑えるためにハートカバーは無理だというので、なおさら都合がよかった(笑)。並製本でザクッと四方裁ち切りにしたような存在感。マンガと小説の間みたいな軽いニュアンスにしようと考えたんです。ただし、中ページからは奇をてらったデザイン性は排除して、クールに。読みやすさを自分なりに吟味して設計しました。結果にはかなり満足しています。読みやすかった、と周囲から言われるのが一番嬉しいですね。
プラープダー本人とも会って、何度も打ち合わせを持ちましたが、とても好感が持てた。ちょうど同じ年だということもあって、話さなくてもあらかじめ通じている部分があるように思いました。有名な人なのに、アートやクリエイティヴが純粋に好きっていう、若い学生みたいな自然体がいいなあと思いました。
この本、売れるといいですね。日本で自作が読まれること、彼は本当に嬉しいみたいだから。ずっと応援したくなります。(談) |
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■遠藤一成 (エンドウ カズナリ)
1973年生まれ。有限会社水谷事務所勤務を経て、2005年4月に独立。アートディレクター/グラフィックデザイナーとして、広告やパッケージ、ブックデザインなどのジャンルで活躍する一方、エキシビション・シリーズ「MERRY」にも参加。自身も「96」「BLUE」などの個展を開催するなど、アーティストとしての側面も注目を集めている。
遠藤さんのホームページは、こちら(http://endokazunari.com/) |
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